バンコクの夜は、道路の熱がまだ引かないうちに始まる。
ラマ4世通りを走る車のライトが途切れないまま、歩道の先に白い建物が浮かび上がった。
珍平酒楼。
タイ語では「チャンペン」、英語表記は CHANDRPHEN RESTAURANT。
もとは鶏の炭火焼きを売る屋台だったと聞いた。
それが代を重ねて、いまはラマ4世通りに構える大きな一軒になっている。
円卓に案内されて、椅子を引く。
厨房のほうから、焼けた鶏の皮のにおいが流れてくる。
こんがりと焼けた、一羽ぶん

白い楕円の皿に、焼き上がった鶏が切り分けられて載っている。
もも、手羽、胸。ひとつひとつに、火の当たった跡が濃く残っている。
皮は縮んで、うっすらと飴色。
噛むと、外はぱりっと、中はまだ汁を含んでいる。
添えられた甘辛いタレをつけると、味が急に立ち上がる。
手が止まらない、というのはこういうことだと思う。
テーブルが、埋まっていく

皿が次々に運ばれてきて、赤い刺繍のテーブルクロスが見えなくなっていく。
青パパイヤのサラダ、焼いた鶏、葉物、そして蓋のされた土鍋。
店の人が土鍋を置いた瞬間、湯気の輪郭が見えた。
蓋の下に何が入っているかは、まだわからない。
タイの食卓は、一皿ずつ味わうというより、全体を行き来しながら食べる。
辛いものの後に、鶏をひと口。それでまた、辛いほうへ戻る。
青パパイヤの、鋭い酸味

千切りにされた青いパパイヤに、トマトといんげん、砕いたピーナッツ。
汁気の多い赤いタレが、皿の底に溜まっている。
口に入れると、まず酸っぱい。少し遅れて、辛い。
それから、乾いた魚介の旨みのようなものが、後ろのほうから来る。
シャキシャキという音が、自分の頭の中だけで響く。
焼き鶏の脂を、きれいに流していってくれる。
円卓と、緑の椅子と

店内は、思っていたよりずっと広い。
白いクロスをかけた円卓が並び、木の椅子には緑の座面。
窓際の席では、家族連れが静かに食事をしていた。
観光客向けの華やかさはなくて、地元の人が普通に通う店の空気がある。
内装の少し古びた感じが、そのまま年月の証明になっている。
こういう店は、たいてい間違いがない。
看板の灯りを、もう一度

外に出て、建物を見上げる。
タイ文字の店名、その下に「珍平酒楼」、さらに下に CHANDRPHEN RESTAURANT。
いちばん上には、金色の紋章が掲げられていた。
三つの表記が縦に並んでいるだけで、この店が歩いてきた道のりが少しわかる気がする。
屋台から始まった鶏の焼きものが、いまも看板料理として皿に載っている。
変わったものと、変わらなかったもの。
また、バンコクに来たら
派手さはない。
でも、焼けた鶏の一皿と、酸っぱいサラダと、蓋を開ける前の土鍋があれば、それで夜はもう十分だった。
ラマ4世通りの車の音を聞きながら、腹一杯で歩く。
ごちそうさまでした。
店舗情報
店名:珍平酒楼(CHANDRPHEN RESTAURANT/チャンペンレストラン)
エリア:バンコク・シーロム通り/サラデーン駅周辺
住所:1030/1 Rama IV Rd, Thung Maha Mek, Sathon, Bangkok 10120, Thailand
アクセス:MRTルンピニー駅から徒歩圏
ジャンル:中華料理・タイ料理
営業時間:11:00〜22:00
定休日:無休
予約:可((+66) 0-2287-1535)
予算:¥5,000〜¥5,999(食べログ表記)
※支払いはカード可
※営業時間や定休日は変わることがあるので、訪問前に確認を。




