バンコクで、シンガポールの味を探していた。
チキンライス、海南鶏飯、福鶏飯。呼び方はいくつもあるけれど、食べたいものはひとつだった。
FATT CHICKEN。
皿の縁には、赤い文字で店の名前が入っている。
シンガポール出身のシェフが、コロナ禍のバンコクで、故郷の味を懐かしんで始めた店だと聞いた。
14歳から厨房に立ち、シンガポールの名店で腕を磨いた人らしい。
トレーを受け取って、席につく。
湯気と、鶏の脂の匂い。
白い皿の、しっとりとした一皿

茹でた鶏が薄く切られて、トマトときゅうりと一緒に並んでいる。
隣の皿には、うっすら飴色に染まったごはん。
鶏の脂とスープで炊いたごはんは、粒がほどけるくらいに柔らかい。
スプーンですくうと、香りが先に立ち上がる。
ステンレスのトレーには、赤いチリソースと、すりおろした生姜。
そのとなりに、黒くて甘い醤油。
鶏をひと切れ、ごはんに乗せて、チリソースを少しだけ。
しっとりした身と、脂を含んだ米。辛さと生姜の香りが、後ろから追いかけてくる。
赤いお椀のスープを挟むと、口の中がいったん落ち着く。
そしてまた、次のひとくちへ手が伸びる。
バンコクで食べる、シンガポール
チキンライスは、派手な料理ではない。
茹でた鶏と、炊いたごはんと、薬味。それだけ。
それだけなのに、店ごとに味がまるで違う。
この一皿には、遠くの故郷を思い出しながらつくっている人の手つきが、たしかに残っていた。
気づけば、皿の上には何も残っていない。
ごちそうさまでした。
店舗情報
店名:FATT CHICKEN(福鶏飯/ファット・チキン)
エリア:タイ・バンコク
旗艦店:Siam Paragon 4階(FATT CHICKEN & SLIM PIG)
そのほかの店舗:EmSphere(G階)、Central World(3階)など、バンコク市内に複数
ジャンル:シンガポール料理・海南鶏飯
営業時間:10:00〜22:00
定休日:無休(商業施設に準ずる)
予算:チキンライス145バーツ前後〜
公式サイト:fattchicken.com
※店舗によって営業時間やメニューが異なる場合があります。訪問前に確認を。